「上田紬」と聞いてピンとくる人はどれぐらいいるでしょうか?
上田紬が長野県のものであると即答できる方は、かなりの着物通といえるかもしれません。
今回は、信州紬の一つに数えられる上田紬について、特徴はもちろん、歴史、買取相場に至るまで細かくご説明します。
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上田紬とは
長野県の上田市に伝わる紬で、信州紬のひとつです。
麻で織られる真田織から着想を得て、絹にも活かして上田紬が生まれました。
染色方法は草木染めで、縞模様や格子がそのデザインの中心になっています。
生地はしなやかさを持ち合わせながらも、とても丈夫なのが特徴です。
その堅牢さから、上田紬1枚あたりに3枚の裏地が必要という皮肉をこめて「三裏紬」と呼ばれることも。
現代の日本三大紬といえば牛首紬・大島紬・結城紬ですが、古来の伝承では牛首紬ではなく上田紬であるとの説もあります。
他の信州紬たち
上田紬は信州紬のひとつです。ここでは、他の信州紬も紹介します。
伊那紬
長野県南東部に伝わる紬です。
現在では老舗織元の久保田織染工業しか生産していない、とても貴重な技術です。
飯田紬
長野県飯田地方で生産される紬です。
飯田格子と呼ばれる、やわらかな味わいの格子柄が特徴です。
松本紬
長野県の安曇野市や松本市で織られてきた紬です。
縦糸は絹または紬、横糸は真綿から紡いだ糸または天蚕糸で織られます。
スタンダードな無地の他に、格子や縞模様といった柄が特徴です。
上田紬の特徴
戦国時代の武将にも例えられるほどの頑丈さも誇っています。
頑丈さを誇る
上田紬は目の細かい糸使いが特徴的で、細かく細かく織ることで頑丈な生地を生み出しています。
その頑丈さは、「一枚の上田紬の表地で、裏地を3回取り替えられるほど!」と言われたほどで、「三裏縞」の異名も付けられました。
その頑丈さは上田をゆかりとする戦国武将真田幸村の屈強さに例えられることもあります。
真田幸村は「日本一の兵」と謳われた武将ですが、上田紬の頑丈さもそれに比類するものとして、「真田も強いが上田も強い!」と言わしめたそうです。
いかに上田紬の丈夫さが讃えられているかが分かる逸話ですね。全国的に上田紬の名が広まっていった経緯を知りえる話ともいえます。
現在はその頑丈さを売りに、バッグやポーチなど強度が必要なものによく用いられています。
個性が表れる着物
上田紬は先染めの着物で、化学染料が出てくる以前は藍染が主流でした。
そのため、上田紬と言えば紺色といったイメージがありましたが、時代と共にそのイメージも変わってきました。
上田紬が他の紬と大きく異なる点は、時代と共に変化し続けている点でしょう。
江戸時代から続く伝統は重んじつつ、現代社会に合わせた機能性を持たせたりデザインをアレンジしたりして、多種多様な上田紬を作り出しているのです。
デザインや機能性、色味などは各工房によって独自にアレンジされているため、他の紬に比べて幅広いデザインがあります。
紬というと派手ではなく落ち着いた色味のちょっと地味なものを想像しがちです。
しかし、上田紬の中には50色以上の糸を用いてグラデーションを楽しむ図柄のものもあり、斬新さが魅力になっています。
より個性的な紬を求めている方は、ステレオタイプを脱して進化し続けている上田紬を、ぜひ一度ご覧ください。
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上田紬の柄
上田紬の柄といえば、縞と格子です。
昔ながらの紬の柄といった雰囲気で、飽きがこない柄、誰にでも似合う柄を採用しています。
極細の縞柄と太い縞を組み合わせたものや、ランダムな太さの縞を無造作に重ねたものなど、縞柄の中でもそのバリエーションはかなり豊富です。
さらに、さまざまな色に染め上げた糸で縞を彩っていくので、グラデーションものもあればカラフルなものもあるなど、見ているだけで楽しい気分になるような紬も多くあります。
柄こそ派手ではなく紬らしいものばかりですが、色味が豊かなのが上田紬の特徴です。
「ただの縞柄じゃつまらない」、「地味な格子柄はちょっと」という方におすすめしたい紬です。
上田紬の産地
上田紬は長野県の上田市で作られる紬です。
上田市は長野県の東部に位置し、南北に雄大な高原を持ち、千曲川も流れる大変自然豊かな土地です。
この自然豊かな土地では、養蚕が古くから盛んに行われており、真田織を始めとした絹織物が多く生み出されてきました。
また戦国武将真田氏の故郷としても知られており、上田駅前には立派な真田氏の銅像が立てられています。
丈夫で地味な紬は武士にも愛用されていたこともあり、戦国の舞台で真田氏が名を広めるごとに上田紬の頑丈さや機能性も広く知れ渡りました。
それゆえ、上田紬は真田氏なくしては語れないと言われているのです。
逆に言えば、もし真田氏が数々の武勇伝を残していなかったならば、上田紬もこれほど有名にはなっていなかったのかもしれません。
上田紬の歴史
長野県の上田市周辺では、1660年代~1670年代初頭にかけて紬織が始まりました。
真田幸村の父真田昌幸が地場産業として真田織を奨励したことから始まり、上田藩主・仙石忠政の時代に現在の上田紬の形が完成したのです。
ちなみに、真田織は麻を作った織物ですが、真田織に用いられていた織りの技法を上田紬は踏襲しています。
同じ長野の各藩では養蚕業が奨励され、各藩競い合って養蚕業に精を出していました。
養蚕業とともに絹織物や紬産業もどんどん盛んになり、長野一帯から産出される紬は「信州紬」と総称して呼ばれ、全国に広がっていきました。
江戸時代になると着物の贅沢が禁止され、いわゆる「奢侈禁止令」が発令されます。
過度な装飾が禁じられた江戸中期には、地味で質素な紬にスポットライトが当てられます。
紬が普段用の着物の主流になったことは上田紬にも影響を及ぼし、江戸を始め京都で人気の紬となりました。
その証拠に、喜多川歌麿の美人画にも上田縞こと上田紬の着物が描かれています。
上田紬の工房【小岩井紬工房】
上田紬の工房は比較的多くあります。
今回は、YouTuberとしても知られている伝統工芸士小岩井良馬さんが在籍する小岩井紬工房をご紹介します。
小岩井紬工房
小岩井紬工房は1948年、上田紬の織元として創業しました。
手織り一筋をモットーに、現在工房を継いでいるのは三代目に当たるカリナさんとリョウマさんです。
お二人は姉弟で、海外留学を経た後、家業である上田紬製造を継ぎました。
若いお二人が工房を経営していることもあり、より現代の人々の生活様式やスタイルに寄りそった紬が日々生み出されています。
リンゴ染めを考案
これまでの上田紬は、上田紬とは何かと問われた時に、他の数ある紬とは一線を画す確固たる特徴はありませんでした。
丈夫さや先染め、ざっくりとした風合いといった特徴は、他のどの紬にも当てはまることです。
上田市で作られているから「上田紬」という名を付けられているに過ぎないという状況だったのです。その状況を変革すべく取り組んだのがリンゴ染めでした。
信州上田は、リンゴの特産地としても大変有名です。
色々な草木染があるならば、リンゴを使った染色も可能なのではないかと取り組み始め、シナノゴールドやシナノスイートといった品種のリンゴを用いた美しい染色に成功します。
淡いグレーや落ち着いた黄緑色など、他の草花では得られない色をリンゴで得たのです。
これを「リンゴ染め上田紬」として、新たな上田紬ブランドを広めつつあります。
ちなみに、リンゴ染めによる上田紬は小岩井紬工房独自のもので、他の工房ではまだ行われておりません。
小岩井紬工房では、信州上田の特産物であるリンゴに特化して上田紬を染め上げていくことで唯一無二の上田紬を作り上げようとしているのです。
ユーチューバーでもあるリョウマさん
リンゴ染めの考案者は弟の良馬さんです。
良馬さんは「伝統工芸士リョウマ」の名でYouTubeチャンネルも開設しており、日々上田紬の魅力や着物の魅力を発信しています。
チャンネル登録者数も3000人を超えるなど、なかなかの人気を博しています。
上田紬についてもっと詳しく知りたい方、工房でどんな作業が行われているのか実際に見たいという方、着物全般について色々知りたいという方は、ぜひ一度良馬さんのYouTubeをのぞいてみてください。
上田紬の着用シーン
上田紬はオシャレな色合いが人気の紬ですが、あくまで紬なのでフォーマルな場にはふさわしくありません。
ではどんな場に相応しい着物なのか、みていきましょう。
カジュアルな席で楽しみたい着物
紬なので本来であれば普段着として着るのが一般的です。
しかし、紬も絹織物であり、伝統的な技法を踏襲している一級品であるという認識が広まってから紬の格も変わってきました。
現在ではフォーマルな席にはふさわしくないものの、セミフォーマルの席であれば着ても大丈夫な場合があると言われるほど、紬の格は上がりました。
上田紬は先染めの着物ですが、従来の先染め紬に比べて色味が華やかで、紬らしくないという特徴があります。
したがって、ちょっと高級なお食事会などセミフォーマルに近いカジュアルな場にも着られる着物だとされています。
個性を光らせたい時に着たい一品
上田紬を従来のように普段着として着ることはもちろん可能ですが、せっかくの色味を活かさずにおくのはもったいないです。
ちょっとした外出にもぴったりな着物で、コンサートや個展、美術館巡りなど、オシャレを楽しみつつ芸術を満喫したい時に活躍してくれる一品です。
独特の色味に合わせてユニークな帯を楽しむなど、着物の着方にも幅が出せるので、一着あると便利でもあります。
先にご紹介した小岩井紬工房のリョウマさんもご自身のYouTubeで上田紬のコーディネート方法など発信しているので、参考にしてみると良いでしょう。
上田紬の証紙と見分け方
自分が持っている紬が上田紬なのかを判断したいときは、証紙を頼りにしてみましょう。
証紙を確認
画像引用元:上田紬の伝統工芸士ブログ
上田紬の産地表示には真田氏の家紋でお馴染みの六文銭が使われています。(上写真)
画像引用元:上田紬の伝統工芸士ブログ
さらに、織られた工房ごとの証紙が付けられているのが一般的です。
例えば、小岩井紬工房の証紙であれば「手織り、小岩井紬工房」の文字が入っています。(上写真)
証紙を確認することですぐにどの工房で作られたものかわかるようになっています。
伝統的工芸品マーク
画像引用元 : 伝統工芸品作業振興協会
上田紬は経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定されていますが、「上田紬」の名で指定されているわけではありません。
「信州紬」の名で伝統的工芸品に指定されているのです。
信州紬とは、松本紬、上田紬、飯田紬、伊那紬、有明紬、山繭紬、絁紬、絓紬の総称であり、長野県全域で生産される絹織物のことを指します。
信州紬は1975年の2月に経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定され、信州紬の一つである上田紬も同時に伝統的工芸品に指定されたというわけです。
そして指定条件は以下の通り。
- 先染め平織りであること
- 経糸には生糸、玉糸、もしくは真綿の手紡ぎ糸を用い、緯糸には玉糸もしくは真綿の手紡ぎ糸を用いること
- 横糸の打ち込みには手投杼を用いること
- 絣の染色は手括りであること
全てクリアしたもののみに伝統的工芸品のマークが付けられています。
上田紬の買取相場と口コミ
上田紬の買取相場についてまとめていきます。
上田紬の買取相場
紬の買取価格はピンキリです。
特に大島紬や結城紬になってくると、本場ものなのか、機械織りなのか、伝統的工芸品なのかによって価格帯が大幅に変わってきます。
上田紬の場合も、ものによって価格は変わってきますが、概ね1万前後と考えておくと良いでしょう。
上田紬(工房名付、比較的新しいもの) | 数千円~50,000円 |
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上田紬(藍染など比較的古いと思われるもの) | 数千円~30,000円 |
上田紬(証紙なし) | ~4,000円 |
上田紬は紬にしては珍しく、斬新性を売りにしているところがあるので、洋装のように「流行」が買取のポイントになってきます。
特に近年作られたものは毎年新しい試みが着物に表れている傾向にあるので、新しければ新しいほど高値で取引されています。
ただし、新しいものであっても証紙が無くなっているものは査定価格も2000円程度になってしまうので注意しましょう。
より高く売りたいという気持ちがあるのであれば、証紙は必ず見つけて、揃えておくことをおすすめします。
【注意】保存状態や種類によって価格は変動する
実際の買取価格は、保存状態・作家・産地などによって変動します。保存状態の良い上田紬には100,000円ほどの価格が付くこともあれば、汚れの目立つ古いものにはほとんど値が付かないことも。
お手元の上田紬が実際にいくらになるのかは査定に出してみないとわかりません。まずは無料査定に出してみることをおすすめします。
実際に買取を行った人の口コミ
では実際に上田紬の買取を行った人の口コミを見てみましょう。
上田紬の買取相場は先にも述べたように1万前後なので、概ね相場通りの買取が行われていることが分かります。
ただし、証紙がないとその分価値が落ちるので、買取に出す時には必ず証紙を付けるようにしましょう。
まとめ
伝統的工芸品に指定されていながら、これほど自由に、現代的に進化を続ける上田紬は今後そのブランド力をどんどん伸ばす可能性が見て取れます。
色艶やかな上田紬が人気になれば、逆に古い藍染時代の上田紬は骨董品としての付加価値が付いてくるかもしれません。
上田紬の買取を検討されている方は、買取時期の検討もしてみましょう。
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