慶事弔辞の席でよく見かける紋(もん)が入っている着物。
何気なく目にする紋付きの着物ですが、
「どのような場面で紋が入れられている着物を着るの?」と、疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
紋に込められた由来や種類、紋の入った着物を着用する際のマナーなどを知ることで、より身近に着物を感じてみませんか。
今回は奥深い紋についての基本的な知識や格、お手入れ方法などを細かく解説していきます。
紋入りの着物を着用するときの参考にぜひご覧ください。
紋の数と入れる場所
紋の数は多いほど格式が高くなり、着物を着用する場所によって付ける紋の数が変わります。
また、紋を入れる位置が間違っていた場合、正式なフォーマルの場で使用することができない可能性もあるので気を付けてください。
ここでは紋の数や意味について見ていきましょう。
一つ紋
紋がついている着物の中で、最も格の低い着物が一つ紋です。
背面の中央上部に一か所につけられている背紋が特徴で、背縫い上、肩甲骨より少し高い位置に入るのが一般的です。
友人として披露宴に出席する場合に訪問着に付けたり、おしゃれ目的で小紋に付けたりできます。
ただし、一つ紋入り着物は、五つ紋のように格式高い場所での利用はNGなので気をつけましょう。
紋の入れ方は、染め抜きと縫いのどちらでもかまいません。
三つ紋
カジュアルな場ではないけれど、少しフォーマルな場所に使用する着物には三つ紋がはいります。
主に略礼装・準礼装といった訪問着などにつけられています。
背紋に加えて、両袖の後ろ(袖紋)にも紋が入っています。袖紋は袖巾の中央、紋上から袖山までの位置に入るのが一般的です。
三つ紋は、五つ紋のように格式高い場所での利用は認められていません。
略礼装として、カジュアルフォーマルな場で利用できる紋です。
五つ紋
もっとも格の高い正礼装の黒留袖や喪服には、必ず五つ紋が付けましょう。
五つ紋は、背紋と袖紋に加えて、抱き紋(両胸)が入ります。
前紋・胸紋ともよばれている抱き紋は前身頃の中心の位置に入り、格の高い着物に染め抜き日向紋を用いられた五つ紋が正式な第一礼装になります。
紋の表現方法による種類
なぜなら、それぞれの表現方法によって格式が決められているからです。
白く染められた部分が広いほど表現方法の中では格が高いと言われています。
そのため「どんな場面で使うのか」を考えながらどのような表現方法が適切か選択すると良いでしょう。
ここではよく選択される3つの表現方法を解説します。
日向紋(ひなたもん)
白い部分が多く明るく見えることから陽紋ともよばれている日向紋。
紋の型の部分を白地で染めて、黒や着物の地色で模様をつけた紋をいいます。
紋の表現方法の中でも最も格が高く、白い部分が多いので遠目からでもはっきりと紋の形が分かります。凛とした存在感が際立つ紋です。
黒留袖・喪服などの冠婚葬祭着物の第一礼装として着用できる条件は下記の2つ。
- 染め抜き日向紋が入っていること
- 五つ紋であること
この条件が揃って、第一礼装として着用可能になります。
たとえ日向紋で表現された着物でも、紋の数が一つや三つの場合には正礼装として使用できなくなるので注意しましょう。
陰紋(かげもん)
陰紋は、紋の輪郭(型と柄)のみ白でなぞった表現方法です。
濃い着物生地に白いラインがとても美しく華奢なイメージが陰紋の特徴です。
陰紋が入った着物は、慶事弔辞のフォーマルの席で使用することはマナー違反のためできません。
そのため、五つ紋の着物で陰紋が用いられることはほぼないといわれています。
一つ紋や三つ紋のカジュアルなセミフォーマル向けに使われることが多いでしょう。
中陰紋(ちゅうかげもん)
日向紋と陰紋の中間にあたる紋が中陰紋です。
三つ紋や一つ紋の着物に使われる中陰紋は、五つ紋に使われることはほとんどありません。
格式の高い場所では着用できませんが、カジュアル過ぎないフォーマルな場に使用したい時などに中陰紋が適しています。
紋の型を太く白でなぞる中影紋は、はっきりとした紋様が特徴です。
紋の入れ方による種類
実は、紋の入れ方によって格も大きく変わります。
格式が高い順に染め抜き紋、縫い紋、貼り付け紋となっています。
ここでは格の種類や入れ方の違いを見ていきましょう。
染め抜き紋
紋の入れ方の中で最高の格といわれているのが染め抜き紋。
まず紋の型を作ります。次に紋の白く残るところを染めて、最後は中に柄を描き足し仕上げます。
非常に高度な技術が必要な染め抜き紋は、最高の格と言われるにふさわしい紋の入れ方といわれています。
縫い紋
縫い紋は、染め抜き紋よりも一つ格が低くなります。
刺繍や糸などで縫い付けて作られる縫い紋は、訪問着などのカジュアルフォーマルで着用される着物に入れられています。
染め抜き紋ほどのインパクトある美しさはないですが、さまざまな色をバランス良く取り入れることで美しい仕上がりになるので人気を集めている表現方法です。
その他けし縫いや絞り縫いといったバリエーションな豊かな縫製が魅力的。
オシャレに着物を楽しみたい人に人気ですよ。
貼り付け紋
貼り付け紋は、もっとも格が低くなります。
比較的安価にとても簡単に紋を入れることができるのが特徴。
アップリケやワッペンのように生地にはりつけることから名付けられました。
一時的に紋を変える時や、着物の染め抜き時の失敗を隠す際にも使われています。
紋が描かれた生地を着物の上から貼り合わせる方法ですが、遠目にも貼り付け紋であることはわかりづらいので、急な対処が必要な際でも安心して取り入れられます。
石持ち入れ紋
上流階級の象徴として江戸時代から使用されている格の高い紋です。
着物の紋が入る部分をあらかじめ白い丸で抜いてあるものを「石持紋」と呼びます。
この状態から別の紋を入れるために改めて生地染めを行い、後から紋を描き足したり変更ができるのが石持紋の特徴です。
留袖などの正礼装の着物に用いられることが多い技法になります。
他にもいろいろな種類の紋がある
植物、自然、建物、動物、景色など、さまざまな種類のものがモチーフとなり、アレンジされています。
どのような種類の紋があるのか見ていきましょう。
女紋
女紋の歴史は江戸時代から始まったと言われています。
母から娘、そして孫娘…代々受け継がれていく女性らしいデザインが特徴的な女性専用の家紋を女紋とよびます。
嫁ぎ先の家紋をいれずに、嫁入り道具として実家の家紋(女紋)を入れる風習は、主に西日本に多い風習です。
一方、関東地方から北の地域では女紋を受け継ぐ習慣はありません。
住む地域や家系によって女紋の使用が異なるので、迷った時は両家や地域での家紋の考え方について確認を取っておくと良いでしょう。
のぞき紋(くずし紋)
江戸時代に庶民の間で大流行されたといわれているのぞき紋。
円形に囲った中に紋が半分だけ見え隠れしている、遊び心あふれるオリジナルの模様です。
正式な紋ではないため、慶事弔辞などのかしこまった場では使用できないので注意が必要です。
普段使いなどのカジュアルな場で活用しましょう。
しゃれ紋/だて紋
正式な家紋に草花や植物など好みのデザインになるように、改良を重ねて作られた紋をしゃれ紋とよびます。
しゃれ紋の一種である「だて紋」は、色とりどりのカラフルな糸を使った華やかなデザインが多く見られるのが特徴です。
どちらも正式な礼装には使用できませんが、普段使いの着物のおしゃれとして人気がある紋です。
細かなルールがないため、大きさや柄も自由に決められるので、人と差をつけておしゃれを楽しみたい方におすすめの紋といえるでしょう。
有名な紋
ここでは代表的な紋の種類や由来などを3つご紹介します。
桐紋(きりもん)
古代中国では桐の木を神聖な木として大切に扱われていました。
いつしか日本にも伝わり、桐の神聖なイメージから、当時は皇室のみが使用できる日本を代表する格式高い特別な家紋として扱われるようになりました。
現在は日本政府の紋章としても使われています。
桐紋には、五三の桐、五七の桐、桔梗桐紋、桐の飛びなどの種類があります。
松紋(まつもん)
かつて日本では松の木を「神が宿る木」として大切にされていました。
現在もお正月の門松飾りとして使用される松は、松竹梅の一つであり縁起の良い植物です。
飛鳥時代には家紋としても用いられるようになり、威厳ある紋として武家に人気のある紋になっていったと言われています。
松紋には、丸に一つ松、二階松、三つ鱗松、割り松毬などの種類があります。
梅紋(うめもん)
学問の神様で有名な菅原道真が愛した梅を、北野天満宮が神紋としたのが始まりと言われています。
梅の花に見立てた美しい図柄が特徴です。
梅紋には、梅の花、丸に八重梅、三つ盛梅、上がり藤に梅の花などの種類があります。
花弁が丸で描かれた梅紋は梅鉢紋といい、梅鉢紋、加賀梅鉢紋、丸に梅鉢紋、花付き梅鉢などの種類があります。
現代では自分の家紋でなくてもOK
もともと家紋とは、家系・血統・地位を表すために使われてきましたが、江戸時代になると一般庶民の間でも家紋を使うようになりました。
この時、家系や血統に関係なく誰でも使えるように作られた家紋が通門といわれています。
そのような背景から、現在も黒留袖などにつける紋の種類には細かなルールが設けられていないのです。
黒留袖を着る機会は多くありません。
そのため、改まって黒留袖などを着るようなシーンでは自身の着物ではなく、母や身内から受け継いだものや友人に借りた着物を着用することもあるでしょう。
そういった場合も特に問題ないので安心してくださいね。
また、現在は黒留袖のレンタルをされる方も多いのではないでしょうか?
レンタルの場合も通紋がつけられる事が一般的です。
中でも「五三の桐」は最もよく使われる通紋です。
江戸時代、皇室で使われていた「五七の桐」に良く似た五三の桐を、一般庶民が真似てつけるようになったのが始まりと言われています。
丸に鷹の羽違いや丸に蔦など通門として使われる紋は他にもありますが、どの紋を使用してもマナー違反にはなりません。
使用の際はご家族、ご両家と一緒にどの紋をつけるか相談したうえで着用してくださいね。
紋のお手入れ方法
紋が汚れた時や、ほつれてきた時、どのような対処をしていますか?
そのままの状態で着物を着るのは、少し億劫ですよね。
そのような場合は専門店で綺麗に直してもらいましょう。
プロの技で家紋が蘇りますよ。さっそく、紋のお手入れ方法をみてみましょう。
専門店で紋の入れ直し・紋消し
汚れてしまった時や紋を変えたい時、または紋を消したい時などに、専門店で紋の入れ直しや紋消しを行うことができます。
紋の入れ直しは、まず薬剤を使って漂白洗浄し、紋を綺麗に消します。その上から改めて好みの紋を入れ直し仕上げます。
紋消しは、着物から紋を綺麗に消すことです。
まず紋に使われていた墨を落とします。紋の絵を落としたら、着物に残った白地部分に、着物に合わせた色を染めて模様を消していきます。
紋を完全に消すためには、色の合わせ方や塗り方にとても高度な技が必要です。
紋消しの際は、専門店で仕上がりの相談をしながら検討することをおすすめします。
シールなら手軽
お手軽に紋を変えたい時はシールタイプの貼り紋がおすすめです。
着物や羽織の上からシール状の家紋を貼り付けることができ、着用後は貼り紋をはがすだけで元通り。
特殊な生地で作られている貼り紋は、貼り紋であることが目立ちにくいので、安心して使用できますよ。
まとめ
慶事弔辞などの席で見かける紋入りの着物。
あまり着る機会がないからこそ、「紋入りの着物を着用する際のルールやマナー」が良く分からなくて不安になる方は多いのではないでしょうか。
今回は、紋の入れる数や表現のしかた、入れ方によって着物の用途が変わることをお伝えしていきました。
ぜひ、紋を選ぶ際の参考にしてくださいね。
ポイントを押さえて、適切な場で正しく着物を着用しましょう。
・全国で完全無料で出張対応
・安心の査定員の品質とアフターフォロー