着物は、日本人の伝統的な装束です。着物離れが進む昨今ですが、現在でも成人式や卒業式など様々な場面で日本人の多くの人々が一度は着用しています。
しかし、中には「着物は着たことはあるけれど、詳しい構造についてはあまり知らない」という人もいるのではないでしょうか?
そこで、今回は着物の構造について下記のポイントを詳しく解説していきます。
- 洋服との違い
- 着物の構造の特徴
- 各部の名称
- さまざまな着物の構造
着物をもっと身近に楽しむためにも、まずは着物の構造について理解を深めましょう。
着物の構造上の特徴
着物の構造は、普段私たちが日常的に着ている洋服とは大きく違います。
普段私たちが着ている洋服は、体形やデザインに合わせた曲線的な形の型紙を元に裁断され、立体的に縫製され作られます。裁断によって使わない布は不要になるため処分されます。
それに対して、着物は反物(たんもの)といわれる幅約38cm・長さ約12mの布を、直線的に裁断し直線縫いで仕上げる筒形の衣装です。型紙は使いません。
出来上がりの着物のサイズの大小に関わらず、反物の幅そのままを使い縫製するので、余った部分は全て縫い代として縫い込まれます。
反物からは着物に必要な、以下の8つのパーツに切り分けられます。
- 身頃(みごろ):2枚
- 衽(おくみ):2枚
- 衿(えり):2枚
- 袖(そで):2枚
上記のパーツを縫い合わせて1着の着物として仕立てます。
それぞれのパーツについては、以下の項で説明します。
構造を知っておくことの2つのメリット
着物の構造を知ることで、自分のジャストサイズの着物を仕立てたり、選んだりできます。また、昔から日本人が受け継いできた「物を大切にする」という精神も学ぶことができるのもメリットの一つです。
メリット1:自分のジャストサイズの着物かを判断できる
各部の名称やサイズを測ることで、この着物が自分に合った着物なのか、そうでないのかを簡単に判断する事ができます。
詳しくは後述しますが、一例を挙げると、自分の背中の首の付け根から肩+肩から手首のくるぶしまでの長さと、着物の裄(ゆき・背中心から袖口までの長さ)が同じであれば「自分の寸法に合った着物だ」と判断する事ができます。
メリット2:物を大切に、次の世代に受け継ぐ心を学べる
また、着物の構造から日本人が受け継いできた「物を大切にする」心を学ぶこともできます。
着物は洋服のようにサイズに合わせて、反物の幅を変えることがありません。余った部分は全て縫い代として着物の中に縫い込まれます。
さらに、直線断ちの着物は縫い目を解いてパーツごとに分解しても、縫い合わせるとまた着物に戻ります。つまり、ほどいてきれいに洗って、再び次に着る人のサイズに合わせて仕立て直すことができるのです。
着物を仕立て直しやすいように、格の高い着物や昔の着物は手縫いで、着物地に縫い目が響かないようにやさしく縫われています。
このように「汚れたら反物に戻して洗う」「仕立て直して次の世代に受け継ぐ」。着物を大切にしてきた日本人の古き良き伝統を学ぶことができます。
着物の基本構造
女性の着物の基本的な構造について見ていきましょう。
表
裄(ゆき)
上の図の「裄」といわれる部分が、自分の体の背中側、首の付け根の中心から肩、肩から手首のくるぶしまでの長さと同じになるのが理想的な長さと言われています。
振り(ふり)・見八つ口(みやつくち)
また、女性の着物の袖の「振り」また、身頃の「見八つ口」には空きがあります。
袖丈(そでたけ)
袖丈が長い着物は「振袖」といって、未婚の女性の正装です。それとは反対に、袖丈が短い着物はミセスが着用します。
衽(おくみ)
着物の前身頃(まえみごろ)には「衽」と呼ばれる布が付いています。ほとんどの場合この幅は15cmです。前身頃は下前(着た時に着物の下になる前身頃)も上前(着た時に上になる前身頃)も左右対称に作られています。
衽も肩に向かって細く、鋭くなっているように見えますが、長方形の布が中に折り込まれて縫われています。長年の着用で、上前の衽が汚れてきた場合は、外側からは見えない下前と上前の衽を付け替えることが可能です。
衿(えり)
前身頃と衽、また首回りを囲むように衿が付けられています。衿の上には「掛け衿(かけえり)」という布が一枚重ねて縫い付けられています。
この掛け衿が長年の着用により汚れてしまった場合は、掛け衿だけを外して、洗ったり、また掛け衿を外して汚れていない「衿」の部分を出して着用したりします。
裏
身丈(みたけ)
身丈とは、着物の肩山から裾までの長さで、身長±5cmくらいまでの長さが理想的です。
繰り越し(くりこし)
女性は、着物の衣紋(えもん)を抜いて着用します。この衣紋が抜きやすいように、女性の着物は仕立てる段階から「繰り越し」を付けて、衿をより背中側に付けています。
色んな着物の構造
男性の着物
男性の着物と女性の着物には構造上以下のようないくつかの違いがあります。
- 「身八つ口(見ごろの脇の下の空間)」が無く袖付けの根本まで縫われている
- 袖の振り(袖口とは反対の身頃側の袖の部分)の空きが無い
- 棒衿(衿の幅が均一)
- 繰り越しが無い
女性の着物にある、見八ツ口、袖の振りの空きはありません。また、女性の衿は衿先に従って幅が緩やかに広がっているのに対し、男性の着物の衿は、棒衿と呼ばれる幅の均一な衿がついています。
また、男性は女性と違いおはしょりを作らず着用するため、身丈=着丈(きたけ・着た時の肩から裾までの丈)となり、着物を羽織った時に、くるぶしが隠れるく位の長さが丁度良いと言われています。
男性の着物は衣紋(えもん)を抜いて着用することがないので、繰り越しが無いのも特徴です。
長襦袢
長襦袢は、和服用の肌着の事で、着物を汗や汚れから守ったり、露出を控える役割をしています。
長襦袢と着物には以下のような違いがあります。
- 衣紋抜き(えもんぬき)が付いている
- 着物よりも丈が短い
- 無双袖(むそうそで・袖が中表に二枚重ねで縫製されている)
長襦袢の「衣紋抜き」とは、背中心の衿の付け根から裾に向かって付いている布の事です。ここに腰ひもを通す輪が付いています。この輪こ腰ひもを通す事によって、腰ひもの位置が固定され、衣紋が抜けた状態をキープする事ができます。
長襦袢は着物と違い、おはしょりを作らず着るので、その分丈も短めです。袖の部分は、着物と違い「無双袖」という中表の二重構造になっています。
振袖用の長襦袢の袖丈は、振袖の袖丈に合わせて長めに作られます。
羽織
羽織りは、着物の上に着る防寒着のようなものです。男性と女性では用途が違います。
男性の黒紋付(黒字に5つの紋を付けたもの)は、正装用として、その他の羽織りはおしゃれ着として着用します。
対して、女性の場合は、格の高い「留袖」や「振袖」、「訪問着」には合わせません。女性の黒紋付は昔、格の低い「小紋」や「色無地」と合わせる事で着物全体の格を上げるために着用されていました。その他の羽織りはカジュアルシーンで着用します。
羽織りが着物の構造と違う点は、以下の通りです。
- 着物よりも丈が短い
- 着物の上から羽織るため、サイズも裄も大きめ
- 脇に「まち」が付いている。
- 羽織の裾まで衿が付いている
- 衿の部分に羽織紐(はおりひも)が付いている
羽織の丈は、膝下まである「長羽織(ながばおり)」と、膝上までの「中羽織(ちゅうばおり)」があります。着物よりもサイズが大きめで、両脇には「まち」と呼ばれる布が付いています。
また、衿は羽織の裾まで付いていて、着用時は半分に折り返し、衿の部分に付いている羽織紐を結んで着用します。
袴
袴は着物と合わせて下半身に着用する、ズボンやスカートのようなものです。男性と女性とでは袴の構造が違います。種類も沢山ありますが、それぞれ代表的な袴の構造について解説していきましょう。
男性の袴
男性の袴と女性の袴の構造の大きな違いは「腰板(こしいた)」が付いているかどうかです。
男性用の袴の後ろ側上部には、厚い芯が入った「腰板」が付いています。また、男性用の袴には「馬乗り袴(うまのりばかま)」と「行燈袴(あんどんばかま)」、「野袴(のばかま)」の3つのタイプがあります。
- 行燈袴(あんどんばかま)
行燈袴は、スカートのような構造になっていて、前と後ろにそれぞれ5本と3本のひだが付いています。行燈袴は主に正装に用いられ、袴の中でも一番幅広で豪華なイメージです。
- 馬乗り袴(うまのりばかま)
馬乗り袴は、両脚を仕切る「まち」が付いていて、丁度キュロットスカートの様な構造をしています。前には、5本のひだ、後ろにはひだが3本ついています。主に普段着の袴として着用され、幅は行燈袴より少し狭くなっています。
- 野袴(のばかま)
野袴は、普段着、作業用として着られる袴の種類です。馬乗り袴のようにズボン式の構造になっていますが、前は4本ひだで、作業しやすいように幅もそれほど広くはありません。
女性の袴
女性が着る袴は「女袴(おんなばかま)」と呼ばれるものが一般的です。女袴は、行燈袴のように、両脚の仕切りの無いスカートのような構造になっていますが、男性の袴のような「腰板」がありません。
主に学校の卒業式などに、着用します。
浴衣
浴衣は着物と基本構造は全く同じです。
浴衣は、木綿の生地で作られた和服の略装で、長襦袢を着けず、夏のおしゃれ着として、縁日やお祭りなどに多くの人が楽しんでいます。
まとめ
古くから日本人に受け継がれてきた着物には、様々な工夫や思いが込められていることがお分かりいただけたと思います。着物についての知識を深め、もっともっと着物を身近に感じて、思う存分着物を楽しんでみてください。
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