骨董品は非常にデリケートな美術品です。何となく納戸にしまい込んでいる、あるいはそのまま放置してしまっていると、せっかくの値打ちを下げてしまうことになりかねません。
この記事では、骨董品・古美術品の適切な保管方法について、種類別に解説していきます。
さらに、保管中に気を付けることや、保管が難しいケースの解決策についても紹介します。骨董品を持て余している人や、保管方法に悩んでいる人はぜひお読みください。
骨董品・古美術品の保管方法は種類によって異なる
骨董品にはさまざまな種類が存在しており、それぞれ材質や形状は異なります。骨董品・古美術品の価値を維持するためには、その種類に見合った方法で保管する必要があるのです。
以下は骨董・古美術品ごとの劣化・破損要因を一覧にしたものになります。
日光 | 湿度 | 衝撃 | 汚れ | |
磁器・陶磁器 | 色褪せや黄ばみ | 湿気で割れやすくなる | 弱い(割れやすい) | ー |
茶道具 | ひび割れる | 湿気によるひび割れ | 弱い物もある | ー |
漆器 | 紫外線による変色 | 乾燥による漆の縮み・器の歪み | ー | 長期保管でカビになる |
絵画 | 色褪せや色焼け | 湿気や極度の乾燥による材質劣化 | 重さで変形・破損する | シミ・カビになりやすい |
掛け軸 | 色褪せや色焼け | 湿度にかなり弱い | かなり弱い(折れ・破れなど) | シミ・カビになりやすい |
彫刻品 | 色焼け | 急激な温度変化で割れる | ー | くすみ・錆び・カビになる |
宝飾品 | ー | ー | 弱い | 指紋・汚れが残りやすい |
同じ骨董品であっても、種類が違えばダメージを受ける要因もさまざまです。湿気を避けて保管しなければならないものもあれば、乾燥状態にならないよう適度な湿度を保つ必要があるものもあります。
骨董品・古美術品は、その特性に合った正しい収納・保管方法で管理しましょう。
種類別に骨董品・古美術品の保管方法を解説
ここからは、骨董品・古美術品の最適な保管方法について解説していきます。代表的な骨董品は以下の7種類です。
- 陶器・陶磁器
- 茶道具
- 漆器
- 絵画
- 掛け軸
- 彫刻品
- 宝飾品
日本は高温多湿なので、実は骨董品・古美術品の保管にはあまり適していません。特に、湿度が非常に高くなる梅雨時期は、気を付けて保管する必要があるでしょう。
骨董品の状態を維持するためには、保管に適した環境を整えなければならないのです。骨董品・古美術品における最適な保管方法を、それぞれ種類別に紹介していきます。
陶器・陶磁器の保管方法
骨董品と聞くと、最初に陶器や陶磁器を思い浮かべる人が多いかもしれません。
陶磁器は、原料である土を形成したものを窯で焼き上げた器のことです。土器・炻器・磁器・陶器の4種類に分類されます。種類ごとの特色は以下の通りです。
土器 | 粘土を700~800℃で焼いたもの(素焼きなど) |
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炻器 | 鉄を多く含んだ粘土を1200~1300度で焼いたもの(備前焼・越前焼) |
磁器 | 吸水性のある粘土に釉薬を塗ったもの(萩焼・益子焼) |
陶器 | 陶石を原料にしたもの 洋食器に多い(有田焼・九谷焼) |
陶磁器などの割れ物を保管する際は、以下のことに注意しましょう。
- 高い場所に配置しない
- 湿度管理を徹底する
- 直射日光を避ける
陶磁器を保管する際は、湿気がこもらず直射日光の当たらない場所に収納することが重要になります。さらに、割れやすい性質のため、高所での保管は破損リスクが高くなるので危険です。可能な限り避けるようにしてください。
茶道具の保管方法
茶道は、日本国内だけでなく海外からも注目されている伝統的な日本文化です。茶道具一式を揃えようとすると、計20点を超える品目が必要になりますが、今もなお世界中のコレクターから愛され、収集され続けています。
茶道具の保管時に気をつけることは以下の通りです。
- 湿気と直射日光を避ける
- 1つずつ包んで収納する
茶道具は、風通しがよく日の当たらない場所に保管するのがいいでしょう。湿気や日光に晒されるとひび割れなどの劣化が進み、ちょっとの衝撃で割れやすくなってしまいます。
また、器やひしゃく、匙などは、柔らかい和紙・布などに包んだ状態で箱に収納しましょう。道具同士がぶつかって傷になることを避けるためにも、1つずつ丁寧に包むようにしてください。
漆器の保管方法
漆器は、ウルシの木の樹液を加工した「漆」と呼ばれる塗料を、器に塗り重ねて作ったもののことです。素地に塗膜を施すことによって、耐水性や断熱性、防腐性に非常に優れているという特徴があります。
漆器を保管する際は、以下のことに配慮しましょう。
- 乾燥させない
- 紫外線に当てない
- こまめに手入れする
漆器の保管場所として適しているのは、通気性があり温度差のない場所です。直射日光の当たらない食器棚などが最適でしょう。重ねて収納する場合は、間に布や紙を挟むようにしてください。
また、塗膜の表面と器である木地の乾燥を調節するためには一定の水分が必要です。長期間乾燥した場所に置くと塗料が縮み、器本体の木地の歪みを引き起こします。
そのため、長期間保管する際には湿度を一定に保つような工夫が必要です。付近に水の入ったコップなどを置き、乾燥しすぎないようにしましょう。エアコンの風もNGです。
絵画の保管方法
絵画は紙に描かれている古美術品で、書画・浮世絵・水墨画などの「日本画」も含まれています。湿気や直射日光に弱く傷みやすい材質のため、状態を維持するには保管時の配慮が不可欠です。
絵画を保管する場合には、以下のことに注意してください。
- 横向き・立てかけて保管する
- 直射日光を避ける
- 湿度管理を徹底する
絵画は、日陰で風通しがよく、湿気がこもらない場所が保管に最適です。変形・破れを防ぐため、絵画同士やほかの骨董品と重ならないように保管しましょう。
色褪せや材質の劣化が起きやすいので、可能であれば黒い布などを被せて保護することをおすすめします。専用のケースや桐箱があるなら、外部からの刺激や虫から絵画を守ることができるでしょう。
さらに、保管時は湿度管理も重要です。湿度が高いとカビの原因になり、極度の乾燥状態だと絵具などのひび割れが起きやすくなってしまいます。
掛け軸の保管方法
掛け軸は、書画や東洋画を鑑賞しやすいように装飾した古美術品です。額の役割を果たす「表装裂地」と和紙で構成されている繊細な美術品のため、扱いには細心の注意を払う必要があります。
掛け軸を保管する際は以下のことに留意しましょう。
- 桐箱に入れる
- 防虫対策をする
- 手袋をして扱う
掛け軸は、ほんの少しの刺激でダメージを受け、修復が必要になるデリケートな骨董です。指紋や手垢などが付着しないよう、骨董用手袋などを装着するのがいいでしょう。また、外したり巻いたりする際は折れないよう気をつけてください。
保管の際は、湿気対策や防虫対策のため桐箱に入れて収納しましょう。抗菌・防虫作用がある「ウコン染」の布地で保護してから入れるのがおすすめです。
ウコン染めの布地は骨董市や茶道具専門店などで購入できますが、掛け軸専用の防虫剤でも代用できます。その際は和紙で外側を保護するように巻くといいでしょう。
彫刻品の保管方法
彫刻品は、木・土・金属・石・石膏など、さまざまな材質で作られている古美術品です。中でも、日本の骨董品として欠かせないのが木彫りの彫刻品で、主に仏像や置物などが該当します。
木彫りの彫刻は、ほかの素材の彫刻品と比べると長期保管が難しいのが特徴です。そのため、保存状態によって価値が変動しやすいといわれています。
彫刻品の保管方法は以下の通りです。
- 気温・湿度を一定に保つ
- 定期的に手入れをおこなう
- 水拭きしない
彫刻品の手入れをする際には、必ず乾拭きでおこないましょう。水分が付着してしまうと、カビの原因になってしまうため、水拭きは極力しないことが重要です。
木製の彫刻は、急激な温度変化によるひび割れに弱く、日光によるヤケが起きやすい特徴があります。収納場所の環境には十分配慮しましょう。
また、ブロンズはほこりや汗・手垢などにより、くすみや錆びなどの劣化が起きやすい特徴があります。定期的な手入れを欠かさないようにしてください。
宝飾品の保管方法
宝飾品は、宝石や貴金属で装飾された、ジュエリーなどの装飾具の総称です。主に指輪・イヤリング・ピアス・ネックレス・ブレスレット・ブローチ・時計などが該当します。
宝石や貴金属そのものの価値と、加工されたデザインの美しさによって値段が大きく変動するのが特徴です。
宝飾品を保管する際は、以下に配慮してください。
- 手袋を付けて触る
- 収納前に柔らかい布で拭いておく
宝飾品はこまめにきれいにすることが望ましいでしょう。柔らかい布などで優しく拭きあげてから収納するようにしてください。
また、できる限り布手袋などをした状態で触れるよう心掛けましょう。繊細なデザインが多いため、汚れが細部に付着すると取れなくなる可能性があります。
骨董品・古美術品を保管する際の注意点とは?
骨董品・古美術品を保管する際に、共通して押さえておくべき注意点は以下の通りです。
- 定期的にお手入れをする
- 生き物に注意する
- ほこりに注意する
- 地震に注意する
手入れや保管を怠ると骨董品・古美術品は傷んでしまいます。骨董品の種類にかかわらず、定期的なメンテナンスをおこなうことをおすすめします。
また、手入れや保管方法が間違っていると、大切にしているつもりがかえってダメージを与えてしまうことになりかねません。特に手入れ時は細心の注意を払って扱うよう心掛けてください。
定期的にお手入れをする
骨董品・古美術品の保管中は、定期的なお手入れを欠かさないようにしてください。お手入れ時には、以下のことに注意しておこないましょう。
- 晴れた日におこなう
- 定期的に陰干しする
- 布手袋をつける(素手はNG)
- マスクをつける(飛沫防止)
骨董品・古美術品の手入れは、晴れた日におこなうことが推奨されています。特に、紙・布・木製のものは湿気に弱いため、じめじめした梅雨時期や雨の日は極力避けたほうがいいでしょう。
湿気取りのためには、定期的な陰干しも必要になります。湿気を避けて保管していても、骨董同士や収納具に含まれる水分などで湿っぽくなってしまうことがあるためです。また、陰干しには虫除け効果もあります。
また、手入れ時はなるべく素手で触れず、専用の布手袋などを装着するようにしてください。素手で触ると汚れ・水分・油分などが付着してしまい、シミやカビの原因になります。手袋は軍手などの粗いものではなく、縫い目が細かく傷をつけないものを選びましょう。
生き物に注意する
保管時は、虫や害獣への対策も必要になります。骨董品本体の手入れだけでなく、保管場所の掃除や手入れも重要です。防虫剤などを使うことも大切ですが、まずは保管場所を清潔に保つよう心掛けましょう。
害虫・害獣の排泄物や死骸による汚れは、長期保管していると気づきにくいものです。そのまま放っておくとシミやカビになり、状態によっては修復不可能になってしまいます。
蔵などに保管する際は、タヌキ・ネコ・ネズミなどの野生動物に注意してください。万が一侵入されてしまうと、骨董品をひっくり返されたり、かじられたりする危険があります。
また、古い木材を使った家具・古道具は、手入れをしないと虫が湧いてしまうので気を付けましょう。特に、和ダンスや小引き出しなどと一緒に収納している場合は、こまめな手入れが必要です。内部に虫が潜んでいないかしっかり確認するようにしてください。
ほこりに注意する
骨董品や古美術品にほこりが積もらないよう、あるいは入らないように配慮することも重要です。ほこりはダニやノミなどの原因になるだけでなく、微量の水分を含んでいます。そのため、ほこりの付着によってカビが着床してしまうこともあるのです。
ほこりを除去する際は、毛はたきや羽ぼうきなどの柔らかい掃除用具で優しく除去してください。比較的水分に強い陶磁器などであっても、水で流したり水拭きしたりせず、乾拭きでお手入れするのがいいでしょう。
それでも汚れが気になる場合は、専用の洗剤などを使って除去することをおすすめします。何気なく普段使っている洗剤やクリーナーなどで掃除してしまうと、かえってダメージを与えてしまうかもしれません。
間違った方法で手入れしていると、あっという間に劣化が進み、価値を損ねることになってしまいます。掃除や手入れは慎重におこないましょう。
地震に注意する
日本は地震大国のため、骨董品の保管時は地震対策も考慮しなければならないでしょう。
耐震性がしっかりしている場所で保管することが大前提となり、多少の揺れには耐えられるよう対策することが求められます。万が一に備えて、落下しない工夫や衝撃を緩和するような工夫をしておけると安心です。
高所や不安定な場所に置かないことはもちろんのこと、骨董同士の配置にも配慮する必要があるでしょう。また、収納時は緩衝材でくるむなどの配慮も必要になります。専用のケースや桐箱などがあれば、その中に収納しておくのが最も安全です。
特に桐はしなやかさのある木材なので、多少の衝撃なら吸収してくれる特徴があります。さらに優れた耐火性能も持ち合わせているため、災害から骨董品を守るのに最適な収納具です。
骨董品・古美術品の保管が難しい場合
骨董品や古美術品の価値は、自宅保管の状態によって大きく変動してしまいます。価値を落とさずに保管するためには、さまざまな配慮や環境整備が必要です。
気に入っていて手放すのが惜しいというものなら、多少の手間暇をかけてでも大切に保管するべきでしょう。しかし、遺産分与などで譲り受けたものや、忙し過ぎて手入れができないものがある場合は、手放すことも視野に入れることをおすすめします。
価値があるうちに手放すことは、骨董品や古美術品を守ることにも繋がります。手に余るようなら、劣化する前に買い取ってもらうのも1つの手段でしょう。
目利きができる鑑定士であれば、劣化の具合までしっかり確認してくれるので、安心して手放せるはずです。また、無料で鑑定をおこなっている買取店も多いため、まずは現状の価値を知る意味でも、一度買取店に見てもらうのがいいでしょう。
骨董品・古美術品の保管は正しい方法で行おう
骨董品や古美術品は、少しでも管理や保管方法を間違えるとどんどん劣化して価値が下がってしまうため、扱いが難しいとされています。しかし、正しい保管方法を把握していれば、状態を維持したまま長期保管することも不可能ではありません。
適切な保管方法は骨董の種類ごとに異なります。自分の所持している作品に合った環境を用意し、定期的にメンテナンスをしながら、その価値と美しさを維持するよう努めましょう。
また、どうしても手間暇かけられない、環境を整えるのが難しいという場合には、骨董品の買取専門店へと相談してみるのも1つの手段です。貴重な骨董品を後世に受け継ぐためには、手放す勇気も必要になります。
骨董品の維持管理に悩んでいる人は、ぜひ一度相談してみてください。