着物姿でよく目にする扇子(せんす)や扇(おうぎ)は、古くから使われてきた歴史ある着物の小道具です。
お祝いの席や普段のお出かけなど、さまざまな場面で取り入れている扇子ですが、大切なルールがあることをご存じでしょうか。
暑さを和らげるため仰いで使うもの、仰いではいけないものの二つの用途で使われています。
今回は、扇子の種類やマナーについてご紹介していきます。
扇子の種類
扇子にはさまざまな種類があり、使用する目的によって扇子が異なります。
ここでは代表的な扇子の種類と使い方を見ていきましょう。
祝儀扇(しゅうぎせん)・末広(すえひろ)
結婚式や入学式、卒業式などの特別なシーンで使われる正礼装用の扇子です。
「末広がり」という縁起のよい言葉から、末広とも呼ばれています。
末広がりとは、上から下にかけてなだらかな広がりを見せており、数字の八のような形を意味します。
末が広がることを古くから発展や繁栄に繋がるという意味で使われており、「末広がり」は縁起の良い言葉として使われてきました。
そのようなことから、末広はお祝いの席で取り入れられるようになったといわれています。
本来末広は、相手と自分の間に結界を作り、礼を尽くすための儀式として取り入れられている道具です。
そのため、末広で仰ぐことはマナー違反になるとされているので注意しましょう。
正礼装には黒塗りの親骨に、金銀の地紙を張った扇子が一般的です。
色留袖・振袖・訪問着などのセミフォーマルの場であれば白い骨の祝儀扇を選ぶのも良いでしょう。
着物の格やシチュエーションに合わせて、持つべき絵柄や色味が変わるので注意して取り入れてください。
夏扇子(なつせんす)
数ある扇子の中で唯一仰ぐことが許されている扇子です。
夏扇子は、一般的に暑さをしのぐ納涼のための扇子として使われます。
夏の着物や浴衣にはもちろん、現在では普段着にも取り入れられているアイテムですよ。
夏場だけでなく、1年を通していつでも使える夏扇子は、さりげなくファッションに取り入れやすいのも特徴です。
基本的に、男性の夏扇子は女性に比べてやや大きめな作りとなっていますが、男女兼用の物もあり、厳密なルールはありません。
夏扇子に使われる素材は紙扇子・刺繍扇・布扇子・絹扇などがあり、好みで取り入れると良いでしょう。
茶扇子(ちゃせんす)・茶席扇(ちゃせきせん)
名前の通り、茶道のお稽古やお茶会で使われる扇子です。
相手との間に結界を作り、相手への敬意を込めるという意味を持っています。
そのため、茶扇子は夏扇子のように広げて仰ぐことはほぼありません。
格の高い正礼装では使えませんが、準正装で使用できます。
能扇(のうおうぎ)・仕舞扇(しまいせん)・舞扇(まいおうぎ)
能扇や仕舞扇は、主に能楽の舞踊用で使われる扇子です。
舞台上で使用する際に遠目からも美しく見えるように、夏扇子よりも大きく作られています。
華やかで美しい見た目の能扇や仕舞扇は、その美しさから床の間のインテリアとして飾られることもあります。
似たような意味で使われるのが舞扇です。主に日舞等の舞踊向けに使われています。
舞扇は骨の素材によって、お稽古用と舞台用に使い分けをされているのが特徴です。
能扇や仕舞扇を「舞扇」と呼ぶこともあります。
能扇・仕舞扇・舞扇はいずれも演舞のための扇なので、仰いで使うことはできません。
末広はマナーを守って正しく使おう
末広を使用する際はマナーがあります。こちらでは末広の正しい使い方を見ていきましょう。
末広の差し方
まずは末広の差し方について、ポイントを押さえましょう。
- 左胸側に、上端がやや右胸に向くように差す
- 帯と帯揚げの間、もしくは帯揚より前に差す
- 金の紙面が相手側を向くように
- 扇子の上端は帯から2センチほど出す
女性が護身用に、剣の代わりとして扇子を身につけていた歴史があることから、末広の差し込む位置は刀を抜くイメージで帯の左にはさみます。
帯にはさむ際は、左手で末広を入れる場所の帯に隙間を作ることで、帯が痛まずに差し込めますよ。
末広の持ち方
基本的に扇子は帯に差したままですが、相手と挨拶をする際は末広を手に持ち、挨拶をするのがマナーです。
正しい末広の持ち方のルールを見ていきましょう。
- 金が前方を向くように右手で末広の根元を持つ
- おへその前あたりで、外側の塗りの部分に人差し指を添える
- 右手の他の4本の指で末広を包み込むように自然に持つ
- 左手はの扇子の下から軽く添えるようにする
式の間はほとんど帯に差したままの末広ですが、挨拶をする際などは正しいルールを身につけて持ちましょう。
末広の注意点
末広を使用する際に最低限気を付けたい注意点を見ていきましょう。
- 黒留袖には金・銀の扇面に黒塗りの骨のものを使用する
- 末広は開かない
- 仰がない
気を付けたいのは上記三点です。
基本的に儀式のために持つ小道具なので、手に持って仰ぐことはできません。
本来の用途は、相手に礼を尽くすために身に着けるものであり、扇子を広げて仰ぐことはマナー違反になります。
白い骨の末広は、黒い骨の末広より格下扱いとなるので、正礼装である黒留袖には使えません。こちらも気を付けて取り入れましょう。
夏扇子は自由にOK
細かなルール決めがない夏扇子は、着物姿のおしゃれの幅を広げるのにぴったりな小物です。
着物や浴衣、普段着に合わせて、オリジナルの扇子を取り入れて楽しみましょう。
夏扇子の目的は涼をとること
その昔、扇風機が一般的に普及するまでの間、夏扇子はうちわと並び夏の暑さを和らげるために使われていました。
庶民にとって夏の必需品だった扇子は、現在でも涼をとる粋な小道具として、よく見かけるのではないでしょうか。
扇子に少量の香水を含ませることで、仰いだ時に香りを楽しむ白檀扇(びゃくだんせん)もあります。
心地よい香りに癒されながら涼をとることができますよ。
好きなデザインの扇子を選べる
さまざまな種類やデザインが展開されている夏扇子。
洋服や着物に合わせて選ぶのも楽しいですよ。
花柄のレースが美しい扇子や、可愛らしい北欧デザインの扇、繊細な彫柄が美しい総竹扇子など、プレゼントとしても喜ばれるでしょう。
ただし優雅に使おう
厳密なルールのない夏扇子ですが、扇子を使う上での最低限のマナーは必要です。
- 高い位置で仰がない
- パタパタと早く動かしすぎない
- 扇子に香りを付ける場合は少量で
高い位置で扇子を仰ぐことで、風が周囲の人にも向かってしまう恐れがあります。
手元を持ち上げることで、どことなく品がないイメージにも繋がるでしょう。
周りに迷惑をかけないよう最低限の配慮に気をつけて、胸元の高さで自身の顎に向かって仰ぐと良いですよ。
仰ぐ際は、忙しくパタパタと仰がず、ゆったり落ち着いて動かしましょう。
袖口から風を少しずつ送るようなイメージで仰ぐと、体感温度が下がります。
どうしても暑い夏場などにお試しください。
誰でも簡単にできる扇子の作り方
扇子を自分で手作りしてみるのも楽しいですよ。
一番簡単な作り方は、夏の季節などに100円均一で売られている、扇子の手作りキッドを利用する方法です。
オリジナルの絵が書き込めるよう、真っ白な扇子になっているので、思い思いの絵を書き込むだけで作れます。
色やデザインを入れる素材
お好きな素材を取り入れることでオリジナルの扇子はいかがですか。
- クレヨンで可愛らしく
- 水彩絵の具でおしゃれな雰囲気に
- マジックペンでカラフルに力強く
- 折り紙や和紙、薄い布などを貼り付ける
- デコパージュで模様を入れる
上記の方法がおすすめです。
すべて100円ショップで手に入るものなので、お手軽にリーズナブルな値段で作れます。
柄のアイデア
お好きなデザインで作れるのがポイントです。
- イチゴやスイカなどの果物
- 金魚や猫などの動物
- アジアンな花柄
- 和柄
- 北欧柄
- グラデーションで明るく
柄に迷った際は、季節に合わせた絵柄を取り入れるのがおすすめです。
ぜひ参考にして作ってみてくださいね。
個性派ぞろいのおしゃれ扇子
セミフォーマルに使える扇子から、個性的な扇子までさまざまです。
用途に合わせて選ぶことで、より一層おしゃれの幅が広がるでしょう。
こちらでは着物から普段着まで使えるおすすめの扇子を3つご紹介します。
①花咲み 入れ無料・天然石・タッセル付き扇子
親骨もしくは中骨に名入れ可能、正絹で作られた扇子です。
自分用はもちろん、母の日や誕生日のギフトにも喜ばれます。
12種類の絵柄の扇子から、文字の書体やタッセル、天然石もお好みの種類が選べます。
自分好みの扇子でおしゃれを楽しめますよ。
扇子袋もセットで付いてくるので、大切な扇子を汚す心配もありません。
ラッピング無料、ご自分やギフトにおすすめです。
②Natti 扇子
軽量・コンパクトで持ち運び便利なナッティブランドの扇子です。
コロンとしたまるいフォルムと、今時らしい北欧柄がとてもおしゃれな雰囲気ですね。
扇子と同じ柄のケースにはストラップも付けられています。
かばんにぶら下げて、手軽に持ち運びができるのも嬉しいポイントです。
普段着から着物や浴衣まで、和洋幅広く合わせられるのでコーディネートの幅が広がりますよ。
③HEMING’S RICCA 扇子
軽くておしゃれ、見た目も涼しげなレースの扇子です。
可愛らしいデザインと仰ぐたびに輝くオーロラホログラム素材がポイントです。
程よい透け感で女性らしく、品の良い雰囲気を醸し出しますよ。
嬉しい扇子袋付きで持ち運びも困りません。
夏らしい透け感で涼をとってみてはいかでしょうか。
まとめ
今回は扇子の種類や、用途に合わせた取り入れ方についてご紹介してきました。
その美しさから、海外からも高い評価を受けていると言われてる扇子。
金銀の地紙を張った祝儀扇には細かなルールがありますが、正しく取り入れることで、一層魅力的な着物姿に変わります。
現代はハンディタイプの扇風機なども開発され、涼をとることがとても便利な時代になりました。
しかし着物姿に取り入れる扇子は、見た目にも上品で魅力があります。
時代と共に変化を続けながら、今もなお親しまれている扇子を取り入れて、着物や普段着のコーディネートを楽しんでみてくださいね。