骨董品や古美術品を保管していて、避けては通れない悩み。それが「錆び」です。
できる限りきれいに保存したいけれど、かといってゴシゴシ洗うのもはばかられる…。
骨董品古・美術品の錆び対策に、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
とはいえ錆びに関する悩みは、今に始まったことではありません。正しい対策方法があり、それを押さえておけば、骨董品をきれいに保存しておくことは可能です。
しかし誤った方法で対応すると、よけいに骨董品・古美術品の価値を下げてしまうこともあります。特に骨董品・古美術品の買取を検討されている方は、その買取価格を下げてしまう恐れもあることを把握しておきましょう。
一様に錆びといっても、その発生の仕方は一つではありません。骨董品・古美術品の素材や種類によって対処法がさまざまであり、それぞれの錆びの特徴を知る必要があります。
本記事では、錆びの正体や性質、また骨董品・古美術品の素材に応じた錆びの落とし方を解説していきます。骨董品・古美術品の錆びにお悩みの方は、ぜひご覧ください。
錆びる骨董品・古美術品は金属製である
言うまでもなく、あらゆる骨董品・古美術品が錆びてしまうなどということはありません。錆びが発生するのは、金属製の骨董品・古美術品です。
また、錆びの対策を考えるとき、錆びそのものばかりに意識が向いていないでしょうか。錆びは汚れのように、外から付着するものではなく、金属自身が「変化」したものです。
そのため骨董品・古美術品の錆びを考えるときは、その金属の「素材」に注目する必要があります。そこを見誤ると、錆への対策が間違ったものとなり、骨董品・古美術品の価値を下げることにもつながりかねません。
錆びる骨董品・古美術品は金属製で、かつ錆び対策はその金属の素材によって異なります。そのことを忘れないようにしましょう。
ここではそもそもの錆びが生じる原因や、素材ごとの特徴について解説します。
なぜ金属には錆びができるのか
そもそもどうして金属は錆びてしまうのでしょうか。
錆びは、金属の酸化により起こる現象です。金属製の骨董品・古美術品が酸化することで、そこに錆が生じます。そしてそれを引き起こすのは空気中の、水分と酸素です。
金属製の骨董品・古美術品に酸素と水分が付着すると、金属の鉄イオンが溶け出し、化学反応を起こします。それはやがて水酸化鉄へと変化。この水酸化鉄が、いわゆる「赤錆び」と呼ばれるものです。
そのため、湿気の多い場所や、湿度が高まりやすい時期は、錆びも進みやすくなります。このように、骨董品・古美術品が置かれる「環境」によっても、錆びの進行や状態は変わってくるのです。
逆に言うと、骨董品・古美術品が空気中にさらされている限り、錆びてしまうのは自然なことです。そのため錆びは排除するというよりも、その性質を理解してお手入れをしっかりと行う必要があるという意識でいる方が正しいかもしれません。
錆びやすい金属・錆びにくい金属
金属の錆びは、その金属の酸化が原因です。そしてその酸化は、水分が付着したことにより起きる金属のイオン化によるものです。
ただし金属の種類によって、イオン化しやすい金属とそうでない金属があります。つまりその金属素材のイオン化しやすさによって、錆びやすい金属と錆びにくい金属があるということです。
例えば、金や銀も金属ですが、あまり錆びるイメージはないと思います。
それはこれらの金属がイオン化しにくい特徴を持つからです。それに対し鉄やアルミニウムは、ややイオン化しやすい金属で、錆びやすいという印象があるでしょう。
このように骨董品・古美術品の金属素材によって、その錆びやすさには違いがあることを忘れてはいけません。その金属素材ごとに、錆びとの正しい付き合い方があるのです。
「鉄」でできている骨董品・古美術品
鉄はもっとも錆びやすい金属のイメージがある素材かもしれません。でも実は、鉄のイオン化のしやすさは、すべての金属の中では高い方ではありません。
しかし、骨董品・古美術品に限らず、鉄の利用率は他の金属よりも圧倒的に高く、また鉄に生じる赤錆びが、いかにも「錆び」という印象を高めるので、「鉄は錆びやすい」というイメージを高めているのです。
鉄製の骨董品・古美術品例
鉄でできている骨董品にはどのようなものがあるでしょうか。
まず、日本刀が挙げられます。日本刀は鉄でできているため、錆びが発生しやすく、はじめは表面だけでも、放置していると内部まで錆びが侵食し、破損してしまう可能性もあります。
ほかにも、鉄瓶や茶釜は、「鉄器」という言葉があるように、鉄製のものが多いです。そのほか、鉄の置物なども、鉄素材の骨董品・古美術品に該当する場合があります。
鉄錆びの落とし方
まず日本刀は、錆びを放置すると破損する恐れがあるので、錆びの度合いが軽微なうちに、錆びを取り除き、それ以上広がらないように対策する必要があります。
具体的には打ち粉を打って、磨くという方法があります。一度で取れなければ2~3回打ち粉を打ち、磨き上げます。しかし、あまり強くこすりすぎると、刀に傷がついてしまうことがあるので、慎重に行いましょう。
またメタルクリーナーを使用する場合もありますが、その場合も研磨剤が含まれていないものを使用し、磨きすぎには注意する必要があります。
それに対し、鉄瓶は「育てる」ことが大切な品物です。鉄瓶の内側に白く付着する膜は、湯垢であり錆びではありません。無理に取り除かず、経変変化を楽しむと良いでしょう。
このように鉄瓶は、使用を重ねていくことで風格が増し、「育って」いくものです。
骨董品として保存する場合は、頻繁に使用することもないかもしれませんが、その場合でも高温多湿を避け保管しましょう。またときどき柔らかい布で拭き、赤錆びが発生していないか確認しましょう。
もし赤錆びが発生してしまったら取り除く必要があります。
鉄瓶に赤錆が発生してしまった際は、何度もお湯を沸かし、お湯の色が赤くないか、あるいは鉄のにおいがしないかをチェックしながら落としていきます。
鉄製品のその他のお手入れ方法
鉄瓶の錆びを落とす手段に、タンニンを使用する方法もあります。
緑茶のティーバックを入れてお湯を沸かし、そのまま1日放置します。これは緑茶に含まれるタンニンと、錆びを反応させて、タンニン鉄を生成する、という方法です。
このように、同じ鉄素材でも、その骨董品の種類や性質によって、対処法が異なります。錆をすべて排除するのではなく、その骨董品の経年変化として付き合っていく姿勢が重要になるのです。
総じて言えるのは、錆びは発生させないように、普段から保存に気を付けるのが大事、ということ。空気中の水分と酸素による反応なので、日ごろから柔らかい布で、骨董品・古美術品の表面を拭いておく作業も、錆びを広げない大切なお手入れになります。
「銀」でできている骨董品・古美術品
銀のアクセサリーなどを使用している方には、銀に錆びるというイメージがないかもしれません。たしかに銀はとても錆びにくい素材です。しかし硫化といって、硫黄と反応し変色してしまうことがあります。
硫化への対処法も含め解説していきます。
銀製の骨董品・古美術品例
銀は骨董品・古美術品において、その美しさから、美術性の高い作品が多く作られてきました。例えば銀食器、宝飾品、トロフィー、盃、コインなどです。
銀は貴金属の一つですが、日常生活で使う品物にも広く使用されてきました。美しさもあり、同時に実用性にも優れている金属素材だと言えます。
銀錆びの落とし方
銀は基本的にほとんど錆びません。しかし「硫化」して黒ずんでしまうことがあります。これを銀が錆びると表現する方もいますが、厳密には錆びではありません。
硫化による黒ずみを取り除くには、市販の研磨剤(クリーナー)や、塩の入っていない練りハミガキを布に着けやさしく拭き、その後別の布でからぶきする方法があります。
またつや消しや、色のついた銀には、水で濡らした布に重曹をつけて、軽くふき取り、水洗い。その後乾いた布でからぶきする、というやり方で対処します。
銀製品のその他のお手入れ方法
普段から使用する銀器などは、よく使い込み、またこまめに柔らかい布で拭くことが、硫化させない方法といえます。
骨董品・古美術品も、使い込むようなことはないかもしれませんが、同じようにやさしく表面を拭くことで、硫化しづらい状況を保てます。
また保管するときは、外気を極力避けるため、袋などに入れておくのも得策です。
「銅」でできている骨董品・古美術品
銅製の骨董品は、江戸期などの「時代物」と呼ばれる品が人気があり、買取店でも高値で取引されています。また銅に錫などの物質を混ぜ合わせたブロンズ(青銅)は、文字通りブロンズ像などに広く使われ、ブロンズ・青銅製の骨董品・古美術品も多く存在します。
銅製の骨董品・古美術品例
銅を使用した骨董品・古美術品には、花器、置物、アクセサリーなどがあります。
またブロンズ(青銅)は加工がしやすく、強度も高いのでブロンズ像、彫刻、古くは銅鐸、壺などに広く使用されてきました。
銀錆びの落とし方
銅と錆びの関係性は、少し特殊です。銅にとって錆びは「必要なもの」、とも言えるのです。
なぜなら銅の錆びは、保護膜の役割を果たすからです。銅は表面に青錆び(緑青)を発生させますが、それにカバーされることで、内部が腐食しにくい状況を作ることができます。
そのため、外に立っている銅像などは、表面こそ錆びに覆われていますが、壊れることなくその姿を残しています。奈良や鎌倉の大仏、アメリカの自由の女神なども銅でできています。
あまりに表面の錆びが多い場合は、指先や10円玉などでこそげとり、その後からぶきして落とします。とはいえ、無理に取り除こうとするのではなく、良い状態で保っておく、という考えが大切です。
銀製品のその他のお手入れ方法
銅の骨董品・古美術品も、基本は普段から柔らかい布でのからぶきがもっとも大切です。仮に緑青が出てしまっても、お手入れを繰り返していると、なじんできます。
お手入れをするごとに、その風合いは深まり、風格が増していくのが、銅製古美術品の魅力とも言えます。
ただし湿気は緑青の発生を早めますので、高温多湿での保管は避けてください。
「錫」でできている骨董品・古美術品
錫は「すず」と読みます。精錬や加工がしやすいため、古くから多くの生活品、芸術品に使用されてきました。銅と錫の合金がブロンズ(青銅)です。
素材そのものの価値もあり、それを使用した美術品は、骨董品・古美術品としても高く評価されています。
錫製の骨董品・古美術品例
錫製の骨董品・古美術品は茶道具の茶釜、茶壷、茶筒、香合、水指などで多く使われています。
ガラスよりも、中のお湯が冷めにくいなどの特徴があるため、タンブラーやコップにも使用されます。海外の古美術品にも多く見られます。
錫錆びの落とし方
錫の特徴として「錆びにくい」といわれることがあります。確かに錫製のコップやお皿が錆びついてしまうイメージはないと思います。
ただし、錫にも錆びは生じます。とはいえ、鉄の赤錆びのように目立つものではなく、錆びをこそげ取るような必要もありません。
基本的に錫は、一般的な中性洗剤で洗ってもよいとされます。また変色してしまった際も、歯磨き粉でふき取り、水洗い後、からぶきすれば美しさ取り戻します。
ただし古美術品の扱いは、慎重に行う必要があるので、骨董の専門家や、専門の買取店などに相談のうえ、行った方が安心です。
錫製品のその他のお手入れ方法
「錆びない」といわれる錫ですが、実際には錆びは起こります。やはり普段から、柔らかい布で表面の水分をきれいに拭きとっておくことが、錆びを発生させない一番の方法です。
また保管場所として、高温多湿をさせるべきなのは他の素材と変わりありません。
骨董品・古美術品は、頻繁に使用することもないと思いますが、もし使用した後はすみやかに洗い、きれいな状態で保っておくことも重要です。
「ブリキ」でできている骨董品・古美術品
錫をメッキした鋼板、それが「ブリキ」です。
ブリキのおもちゃをイメージする方も多いと思います。
加工がしやすく、錆びや腐食を防ぐよう作られ、耐久性もあるので、玩具やアンティークに使われることの多い素材です。
ブリキ製の骨董品・古美術品例
ブリキ製の骨董品・古美術品は主に玩具や、アンティーク品が多くを占めます。ゆたんぽや、じょうろなどの古道具にも、ブリキは使用されています。
第一次大戦後、日本のブリキ製のおもちゃは、主要な輸出品でした。また、1950年代、60年代に製作された日本製のブリキのおもちゃも、そのユニークな見た目と、精巧な作りから、世界的に評価され、骨董の世界でも愛される存在となっています。
ブリキ錆びの落とし方
ブリキは錆びないように錫で加工されているとはいえ、中は鉄なので錆びは発生しがちです。
発生してしまった錆びは紙やすりを細い棒に付け、細かくそぎ落とす方法が一般的ですが、ブリキ製品に傷をつける恐れがあります。
市販のさび落とし剤であれば、よりきれいに錆びが落とせて、その後、錆止めでコーティングすれば錆びはある程度きれいになります。
とはいえ、ブリキ製品に傷をつけてしまう可能性もあり、そうなると骨董品・古美術品としての価値を落とすことになりかねません。骨董品・古美術品としての保存を重視するのであれば、専門家や専門の買取店に相談したうえで実施する方が安全です。
ブリキ製品のその他のお手入れ方法
ブリキの錆びはメッキが剥げたところから発生してきますので、劣化させないように慎重に扱うことが大事です。特に動くおもちゃなどは、可動部から錆びやすい傾向にあります。
普段から湿気、水分を避け、皮脂なども錆びにつながるので、触ったあとはきれいに拭きとっておくなど、配慮が大切です。
錆びを落として骨董品・古美術品の価値を高めよう
本記事では、金属製の骨董品・古美術品に発生しがちな、錆びについて解説してきました。一言で錆びといっても、その発生の仕方は素材によって異なり、またそれぞれの素材で対処法や考え方がさまざまであることが、理解できたことと思います。
錆びは骨董品や古美術品のような長い年月を経た品物には、どうしても生じうるものです。そのため、極端に恐れ排除するというよりも、上手に付き合っていくという考え方が必要です。
また、骨董品・古美術品の性質によっても、その対処の「度合い」が違ってくるので、詳しくは専門家や、専門買取店の鑑定士などに相談することをおすすめします。むしろ無理に取り除こうとして、作品を傷つけたり、風格を落としたりすることはかえってマイナスになります。
骨董品・古美術品の錆びは適切な方法で「正しく落とす」ことが重要なポイントになります。その点に注意し、骨董品・古美術品の価値を高めていってください。